一夏の想い出
熱された空気がゆらゆらと揺れる真夏日の下、口喧しい従姉に辟易して家を抜け出した冬獅郎は、集落の外れへと続く白いコンクリートで固められた道の途中に人影を見て足を止めた。
白い道に黒い
喪服姿の男が、まるで道に迷って途方に暮れたように、立ち尽くしていた。
他人の家の蔵に男を連れ込んで、一体自分と男は何をするつもりだろうと、冬獅郎は男の黒いネクタイを引き抜き現れた喉元に食らい付きながら思った。黒い喪服の下、長袖のシャツは男の汗に濡れて所々透けている。男の肌は熱く、締め切った蔵は気が狂いそうに暑い。
上がり框には男の脚が引っ掛かったままで、シャツのボタンをボタン穴へと沈めながら、少しずつ露になる肌に焦らされて乱暴にシャツの裾を引き摺り出す。ベルトのバックルが立てる高い金属音が、不手際を嘲笑っているように鼓膜に反響して、冬獅郎は男の肌に唇を擦り付ける。下肢が痺れて重い。どうにかしたくて跨いだ男の膝に座り込めば、硬い丸みに股間を押し上げられる強烈な刺激に喉が震えた。夢中になって男の膝に擦り付けながら、言うことを聞かない手で男のスラックスの前を開き、下着ごと引き下ろす。尻に引っ掛かっただけで覗いた繁みに絶望的に口が渇いた。掴んだ太股の裏側へ手を押し込み、今度こそ膝上まで下着ごと引き摺り下ろして掌に冷たい尻肉を鷲掴みにする。今もって冬獅郎は自分の目的を理解していなかったが、中途半端に絡んだ着衣で閉じ合わされた男の膝を、その奥を見るべく大腿を掴む手の動きだけは当然のことだと納得していた。
腰を浮かせて着衣を抜き取る。爪先まで露な男の脚を唾液を塗りたくるように舐め回す。足の指すらしゃぶり、浮き上がった踝の骨に噛み付く。膝裏を掴んで引き上げ開かせれば、男の股間が全て明かり取りの小さな窓から差し込む日の影に晒せた。渇いていた筈の唾液が湧く。
見開いた眼が、痛い。
男の股間に舌先を捩じ込んで緩く反応していた陰茎をくわえ込む。溢れそうな唾液ごと啜った拍子に細く吐き出された男の吐息が届いて、冬獅郎の後頭部を殴られたような衝撃が襲う。
見上げた男の目尻は紅く染まり、戦慄いた唇から零れる微かな蜜の音。
全裸にした男を見下ろし、服を纏ったままの自分を自覚し、冬獅郎は漸く自分が男と溶けて混じり合いたいのだと理解した。
冬獅郎は男から離れ難い手をようよう引き剥がし、自分の着衣を脱ぎ捨てる。男の体に比べれば未完成で貧弱なこんな体でも溶け合えるだろうか。
「……冬獅郎」
ふ、と男が笑う。
そう、男は何故か最初から冬獅郎の名を知っていた。
「お前……そっぽ向いてる」
今まで表情の分からなかった男が、穏やかな微笑を浮かべて腹に反り返るまでに勃起した冬獅郎の陰茎を両手で包んだ。くいくい、と手を掛けて少し右に逸れた陰茎の先を引き戻し、不自由な姿勢のままで冬獅郎の陰茎をあやす。
他人の手に触れられる刺激で、それ以上もうどうにもなりそうにない陰茎がズキリ痛んで震えた。思わず呻いて男の手を払い除ける。このままでは気が狂う、追い詰められた思考で再び男の股間に顔を埋める。薄い皮膚を我武者らに舐め付け、滴った唾液の後を追って更に下へ。片膝では足りず、もう一方の脚を掬い、押さえる代わりに肩へと担いだ。浮き上がった臀部を左右に開けば、伝った滴に濡れ光る後孔が見付かる。とてもいきり立った陰茎を押し込めそうには見えないそこに、何が何でも挿入したい。
指を舐めて唾液を絡ませると、その指先を押し当てる。締まる後孔に構わず奥へと、指を揺らしながら性急に押し込みながら、直腸の温かさにただただ胸が騒いだ。
入らないかと不安に思った二本目を汗だくになって押し込み、グリグリと乱暴に突き回す。男の踵が忙しなく背を蹴り、押さえ付けた腰が妖しくくねる。男の内股に滲んだ淫らな汗を嘗め舐り、肉に歯を当てると指が食い締められるから、反抗するように揃えた指をバラバラに動かした。男の陰茎の先にぷくり雫が溜まる。
全てが、あらゆる感覚が弾けた。
悲鳴を上げそうな喉を引き絞って指を抜き、限界を主張する陰茎を掴んで男の後孔へ擦り付ける。指に擦られて紅く充血した熱い口に、どんな刺激も痛みに変換しかねない膨らみ切った先端を押し付けた瞬間、目眩を起こしたように頭の中が真っ白に染まった。
腰から脱力する、膝から崩れ落ちそうになる。ぶるり震えた腰に瞬きを繰り返し、白く眩しかった視界の明度が落ち着けば、思い出したのは絶望感。
男と溶け合えずに果てた自分に対する情けなさ。
男の顔を見られるわけがなくて蕩けそうに熱かった男の後孔を恨めしく眺めれば、そこは吐き出した精液にまみれてあまりの卑猥な有り様に脳が焼ける気さえした。ひくりひくり控え目にハク付く後孔は、しとどに濡らす濁った粘液を飲み込もうとしているように見える。弾けた痕跡は男の陰嚢や陰毛にも飛び散り、わざとブチ撒けたように淫猥。
ごくりと冬獅郎の喉が音を立てる。見下ろした自身の、既に起ち上がっている陰茎を掴み、今度こそ男の後孔へと先を潜り込ませた。
熱い内部にピタリ吸い付かれて、奥へ奥へと身を進める間にも血が溜まり反り返っていく自身を感じる。吐き出す息は火に変わりそうな程熱く、無意識に腰を揺すり立てながら下腹が男の尻に密着するまで押し込んだ。
ただそうしているだけでも押し包む内壁の蠢きに血がたぎり、膨らみ反り返る先で突き上げてしまう。ゆっくりと本能で開始した律動、締め付ける口輪を無理に押し開く嗜虐と揉むような内壁に包まれる安堵、その境界を往き来する中に見出す痺れるような甘い感覚。押し込んだ先で突き上げ、ざわめく内壁に揉み立てられる悦楽、今確かに溶け合っている男の身体にただ夢中で溺れた。
腕を撫でた温い風に冬獅郎は眼を覚ます。狭い蔵の中、寄り添うように共に寝転んだ筈の男の姿は何処にも見当たらない。
そんな気は、していたのだけれど。
忍び込んだ蔵を脱け出し、夕暮れの畦道を歩く。小さな雨蛙が飛び跳ね、田へ引かれた水がこぽりこぽりと音を立てる。
あの男に逢いたい、それだけで泣いてしまいそうだった。
不思議な夏も終わりますね。
(c)Sakusi