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ignal Berry






狭い風呂場の壁に小さな鏡、それを覗き込んで一護は重く溜め息を吐き出す。
腰が重い、だるい。そこだけ取り外せたらと思うけれど、そこだけ軽くなっても頭の酩酊はなくならないとわかっているから、一護は舌打ち一つで気持ちを切り替え、シャワーを止めてバスタオルを引き寄せる。このタオルが綺麗にたたんだ状態で洗濯機の側に置いてあったことだけは合格点だ。

滴を拭い落とした肌に前となく後ろとなく付けられた無数の鬱血跡、中には噛み跡らしきものも混ざっているのが見えると気が滅入る。
少しばかり肩を落として浴室を出た一護の腰を、しかし待ち侘びていた腕がすかさず浚って抱き込んだ。急な視点の変化に慌てて振り返らずとも、向かい合った洗面台の鏡には一護を背中から抱き込んで臍の周囲を撫で回す男の姿が映っている。

「酷いな。あんな夜の後にサッサと一人でシャワー?」
冷たいと詰られて一護は眉間の皺をキツく寄せる。
「どっかの誰かが腹の中にしこたまブチ込んでくれたおかげでおちおち寝てられなかったんだよ!」
「へぇ、自分で処理したのか」
「そこで指見んな」
卑猥な視線が腹立たしくて男の鳩尾狙って肘鉄を打つが、器用にも一護を抱き締めたまま体を捻ってかわされてしまう。苛立った神経をピンポイントで逆撫でされた気分で、一護は歯牙を剥く。
「暴力的だな」
「うっせぇ、ドS野郎」
「ん? よくわかったな」
「見りゃわかる」
と言うかヤればわかる。が、それを口に出すのは何となく気に食わないから言わない。
「だろ? すげぇシャイな男なんだよ」

S=サド、ではなくシャイ。

……うぜぇ。
心底げっそりした一護だったが、頭の酩酊が未だ晴れる気配もないことに気付くともうしゃがみこんで頭を抱えたくなった。

酩酊の原因は酒ではなく男とのセックスだと理解していたから。









(c)Sakusi