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ignal Berry

コロイチ 05




旅禍の訪れを告げる警戒警報に、技術開発局内は騒然となりかけた時、局員の阿近は検出した霊圧が現世の死神代行のものだと気付いて直ぐに警報を停止させた。
「アイツ、地獄蝶使えるんじゃなかったのか? 何だって今更無理矢理突っ込んで来たんだ」
「阿近さん、黒崎代行と一緒にもう一つ霊圧が」
リンの報告に阿近は首を傾げる。
霊圧で判断するならその種類は一つ、しかし改めてリンの指し示す値を見れば、確かに同一と見紛う程一護とよく似通った霊圧が。
「……十三番隊の朽木ルキアに連絡、白道門の前で待つよう伝えろ」
十番隊に一報を入れることも考えたが、様子見であれば平隊士で事は足りるだろう。

「涅局長には連絡しない方がいいんだろうな……」
何かある前に知らせれば何か起こすのが涅マユリだということを、阿近はよくわかっている。朽木に連絡をさせて、その結果次第だなと阿近は冷静に各局員へと指示を出した。





「一護!」
「よぅ、ルキア」
白道門前に仁王立ちで待ち構える見慣れた姿に、一護は少し頬を緩めた。抱えていたコロイチが一護を見上げるのに、大丈夫だとその頭を撫でてやる。撫でる手が楽しかったのか、コロイチは新しい遊びでも見付けたように、手の平に額をぐりぐり押し付けて笑う。苦笑する一護に駆け寄ったルキアは、コロイチを見てぱちりと大きな眼で瞬きした。一護と子供の組み合わせなど、妹達しか見たことがない。しかし、その妹達もここまで小さく幼くはない。
「一護、それは……」
「コロイチ」
「コロイチ?」
「仔供の虚の俺、でコロイチ。浦原さんが俺の生体データで作ったらしい」
「貴様の?」
一護が抱いたコロイチを差し出すようにすると、一護の腕にしがみ付きながらも興味があるのかルキアの方へ首を伸ばす。

「コロイチ、挨拶」
大きな目でルキアを見上げ、照れたようにふにょ、と笑って小首を傾げたコロイチに、ルキアの目が輝いた。大好きなウサギでなくても可愛いものを嫌うはずがない。

「コロイチというのか? 私は朽木ルキア、一護の仲間だ」
手のひらを差し出したルキアにコロイチもそぉ、と小さな手を伸ばす。ルキアがその小さな手にちょっとした感動を覚えつつ優しく握れば、少し緊張が解けたのか、コロイチはふにゃんと笑った。
「コロイチが貴様を元にしているなど嘘ではないのか!?」
「俺もちょっとそう思ってるよ」
噛み付くようなルキアの言葉を諦め顔で肯定した一護は、突然の大声に驚いた様子で口を開けたまま固まっているコロイチを、ほら、とルキアの腕に預けた。慌ててそぉっ、と抱き止めたルキアは、コロイチが小さな手で死覇装を握るのに嬉しそうに見詰める。

「ルキア、爺さんに会いたいんだけど、取り次いでもらえるか? 浦原さんから手紙預かってるんだ」
コロイチのことで。
「私などが間に入ったところで取り次いで頂けるかはわからないが、貴様と浦原が関わっているなら総隊長も会って下さるだろう」

ところで、もう暫くコロイチを抱いていて構わないか!?
ぷにぷにと柔らかいコロイチの腕を痛くないように揉み触りながら、返す気もないのに尋ねるルキアに、一護は苦笑混じりに好きにしろよと頷いた。



結果的に山本総隊長はコロイチの存在に寛容にならざるを得なかった。
コロイチを膝の上にちょこんと乗せられて、もじもじてれてれするコロイチに頬を赤くして笑って見上げられては、威厳ある総隊長もただの爺様になってしまい、長い髭を掴まれても額を撫でられても笑って許す程。
わざわざ雀部に飴を買いに行かせ、手ずから与えたがる様子には一護もルキアも、見なかったことにしようとそれとなく眼を逸らしておいた。



山本総隊長の膝からルキアの腕に移動したコロイチは、モゴモゴと口の中で右へ左へ飴を転がしてご機嫌にしている。本来食事は出来ないコロイチだが、尸魂界はあらゆる物を霊子が構成しているため、コロイチも実際に口を介しての栄養摂取が可能らしい。
「うっかり飲み込まないように気を付けろよ」
ぷくり飴の分だけ膨らんだ右頬をつっついた一護に、コロイチはぷ? と首を傾げると飴を逃がそうとするように、舌でころりと左の頬へ飴を転がした。
コロイチにすれば新しい遊びのつもりなのだろう、手が届かないと苦笑した一護の代わりにルキアが指で左頬をつっつく。ビックリ顔でルキアを見上げ、ますます嬉しそうに今度は右へ。ルキアに視線で促されて仕方なく一護が頬を押せば、当然のように今度はルキアをきらきらの目で見上げて。

「子供という生き物がこんなに可愛らしいとは思いもしなかった」
「機嫌がいいときはな。けど、コロイチだって拗ねたりごねたりするとこれが結構大変」
泣かれると本当に参る。
「そうなのか……ところで、私達は今何処に向かっているのだ?」
「どこって……十番隊」
「日番谷隊長か。あまり押し掛けてご迷惑を掛けるなよ」
まるで一護がいつも冬獅郎の都合も考えずに押し掛けているかのようなルキアの言い様に、一護は不愉快そうに顔をしかめた。確かに自分はガキだが、相手の都合も考えられない程身勝手なつもりはない。
今日は予定外にコロイチが一緒だったから穿界門を使わざるを得なかっただけで、約束自体はちゃんとしていた。しかしそれをルキアに説明するのは面倒な上に気恥ずかしいから、一護は仏頂面のまま頷いておく。
「わかっていればいい」
上からの目線にカチンと来るが、仕方ない。冬獅郎が一護の都合に構わず押し掛けて好き放題して帰る話なんて、出来るわけがないのだから。

やがて十番隊舎に差し掛かると、ルキアは名残惜しそうにコロイチを一護に返した。
「仕事か?」
「貴様が何を連れ込んだか確かめて報告するのが、な」
技術開発局の阿近殿がお待ちだ。
「そりゃ……迷惑掛けたな」
「次からはせめて私にくらい事情を話せ。ではな、コロイチ」
ふにゃり笑ってルキアの手を握り返すコロイチと一緒に彼女を見送ると、一護はコロイチを慣れた様子で抱き直した。
腕の中で跳ねたどこもかしこも丸っこい体を右腕で抱いて、大きな目をくるんとさせて見上げて来るコロイチの、あちこち跳ねた毛先を撫でつけて。

「じゃ、行くか」
ちゃんと行儀良くしてろよ、見た目と違って怒らせたら結構恐い相手だからな。
一護の言葉を理解したのか、コロイチは自分の頬をつっつきながら、ぷ? と可愛らしく首を傾げて見せた。









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