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ignal Berry

コロイチ 04




コロイチが声を出さないことを残念だと思うことは少なくないが、場所を自宅に限るなら、声を出さない子で良かったと思う。

風呂に入ってほかほかのほこほこになったコロイチをタオルでしっかり包んで抱き抱え、家族の見咎められないうちにとコソコソ部屋へ向かいながら、ふわふわと小さな口で大きく欠伸をする様子に一護は小さく苦笑する。全く、こちらの気も知らないでとは正にこのことだ。
ドライヤーで乾かしたばかりの髪はくるっくるのふわっふわ、温まった頬は優しいピンク色で思わず撫でたくなるほど愛らしい。元々の生体データが同じだなんて、一護にはとても信じられない。
部屋に入るとコロイチをタオルごとベッドに下ろし、喜助から預かっている着替えを着せる。小さなボタンを止めるのは意外に難しくて、しかもコロイチは油断すると額をくっ付けて来るので危ない。けれど、最近夜一さんからいいやり方を教わった。

「コロイチ」
何の芸を仕込まれたのか、コロイチは短い指で自分の頬を押さえながらぷ? と首を傾げて見せる。可愛い可愛いと頭を撫でてやるとふにゃり嬉しそうに笑うコロイチを抱き上げ、一護は胡座を組んだ足の上にコロイチを前を向かせたままで座らせた。
丸い頭の上から覗き込むようにしてボタンを留める。確かにこの方法ならコロイチが暴れても押さえ込めるし、額を合わされて不意打ちで霊力を食われることもない。
さすが夜一さん、と感心しながらコロイチの背中をぽんと叩いて動いていいぞと促すが、コロイチはご機嫌に一護の腹にもたれ掛かり、パタパタと足を遊ばせる。
「ま、いいけどな」
柔らかい髪を撫で付けてやりながら、一護は机の端に乗せていた教科書を引き寄せてコロイチの頭上でページを捲る。
今日の授業の復習、しかしいくらもしないうちに、コロイチの体がずるずると足の間に崩れたから、どうかしたのかと慌てて見下ろせば、コロイチは全身を一護に預けてぷぅぷぅと眠り込んでいた。

よく食べて遊んで眠る、正に健康優良児だ。

足の間からベッドに場所を移してやり、一護はもう少し勉強しておこうと静かに椅子を引っ張り出す。鞄からノートを取り出したところで、携帯が着信を告げているのに気が付いた。風呂の間に届いていたらしいメールを確認すれば、世界を異にする恋人からで。
気を付けて来い、などと気遣う内容が彼らしくあり気恥ずかしくもあり、一護はわかったと短い返事だけ返して携帯を閉じた。





「コロイチ、出掛けるぞー」
一護の霊力をたらふく吸い取って満腹になると同時に、襲い来る眠気に潔く負けてうにゃうにゃと眠っていたコロイチの頬を、一護は痛くない程度に引っ張って起こす。
コロイチが寝ている隙に遊子の昼食をかき込んだばかりの一護だって、ベッドに転がってゴロゴロしたい気持ちはあるのだ、気持ちよく眠っていたところを起こされてぶすっと頬を膨らませるコロイチの気持ちはよく分かる。
「機嫌直せよ、なぁ?」
頭をなでなで、うー、と強請られるままにぎゅーっと抱き締めて、抱っこが気持ち良かったのかまたウトウトと瞼の落ち始めたコロイチを片腕で抱いたまま、一護は器用に財布と携帯といつもの袋を引き寄せる。
くっつきたがるコロイチを宥めて剥がして袋に入れ、ぐずるコロイチに頼むから大人しくしていてくれと頭を撫でて、ついでにコンを放り込む。欲しいのはこれじゃないとコロイチに手加減なく揉みくちゃにされて、コンが悲鳴を上げるのに静かにしないとまたボスタフとか呼ばれるぞと軽くトラウマを刺激しつつ、部屋を出る。
「一兄、どっか行くの?」
「おぅ、ちょっとな」
「ふーん。でもその袋……」
何か言い掛けた夏梨の鋭い視線に怯みながら振り返れば、夏梨はそんな一護の態度に呆れ気が削がれたように肩を竦めた。
「……何でもない。行ってらっしゃい」
「ぉ、おぅ。行ってきます」
どういうつもりか見逃してくれるらしい夏梨に感謝しつつ、一護はそそくさと家を出る。

休日の昼間はご近所の目がどこにあるかわからないから、いつもより長い距離をコロイチに我慢させて、浦原商店近くで漸く袋から出してやれば、ぷくーっと頬を膨らませたコロイチが一護の首にしがみついた。短い腕でぎゅうぎゅうにしがみつかれて、危うく首が絞まりそうになった一護は慌ててコロイチの背中を撫でて宥める。
ご機嫌を損ねるのも二回目となればなかなか根が深い。浦原商店に着くまでにすっかり直ってくれればと思っても、ちょっと難しいかもしれない。
結局一護の予想通りに、浦原商店の建つ通りに入る頃になって漸くコロイチはちっちゃな片手で服を握る程度にしか機嫌を直してくれなかった。見下ろした頬もぷっくり膨れたままで。
浦原商店の引き戸を開けた瞬間、コロイチが両手でしっかりと一護のシャツを握り締める。コロイチにとっては浦原商店は所謂保育施設、一護が迎えに来るまで待っていなければならない場所、となれば当然のように離れなければならないのではと不安になるらしい。普通の休日は一護にべったりなだけに尚更、そして実際にその通りなだけに。
「いらっしゃーい、コロイチさん」
喜助の出迎えだけで既にうるると涙を浮かべたコロイチに、一護は仕方ないよなぁとその体をぎゅ、と抱き寄せた。
「浦原さん、悪ぃ。穿界門開けてくれ」
「おや、連れて行かれるんですか? お預かりしますよ?」
「最初はそのつもりだったけど、今日はちょっと機嫌悪くて。それに、爺さんにも会わせておいた方がいいんだろ?」
うっかり虚として捕捉されてはまずいだろうという懸念については、何かの折りに喜助から聞いている。総隊長のお墨付きがあれば事を避けられるのは事実で、喜助は一護の申し出に都合よく甘えることにした。
「わかりました。それじゃ総隊長にはアタシの方から一筆書かせて頂きましょう!」
良かったですね、コロイチさん。黒崎サンと一緒にお出掛けですよー。
コロイチの鼻先で笑って、喜助は早速手紙を書くために奥へと消える。
怪しい笑顔が本能的に恐かったのか、ぷるぷる震えるコロイチを両腕で抱き直し、一護は大丈夫だからと頭を撫で、背中を擦り。

「浦原さんの笑顔より、一緒に行く方が怖いかもしれないぞ? 怖い所走って、怖いものに追い掛けられるかも」
怖い連中もいっぱい。
それでも一緒に来るかと聞けばコロイチは『一緒』が嬉しいとばかりに頷くから、一護は困りながらも笑うしかなかった。









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