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ignal Berry
コロイチ 02
「黒崎サンが学校に行かれている間は店でお預りしますから」
そう言って食事や睡眠について簡単に説明するとコロイチを残して早々に帰ってしまった喜助の消えた窓を閉めて、一護はきゅぅ、といつからか脚に掴まって離れようとしない子供を見下ろす。視線に気付いたのか、見上げつつますます脚に身を寄せる仕草に必死さが窺えて一護は息を吐くと軽く腰を屈めて片手を差し出した。
「ほら」
ぱちり瞬きしたコロイチが顔と手とを見比べるあどけない様子は、小さい頃の妹を見るようで懐かしい。
ひらひらと手を揺らして誘い、恐る恐る伸ばされた小さくてぷにっとした丸っこい手を優しく握る。それだけのことでぱぁ、と淡く染まる頬は実に愛らしい。思わず頬を綻ばせて、一護はひょいっとコロイチの身体を片腕に抱き上げ。
「とりあえず寝ようぜ。一緒でいいか?」
これだけ懐かれていながら首を横に振られるとは思わないが、一応尋ねれば子供はやはり機嫌よく頷いた。ベッドへ下ろして転がしてやればそれが面白かったのか、声なく笑ってコロコロと転げ回る。箸が転がっても楽しい年頃だろうか。
「……っと」
転げ回る内にベッドの端まで転がって危うく落ちそうになるコロイチを掴まえながら、一護は寝てる間に落ちてしまわないかと少し心配になる。床に布団を敷くか、ルキアのように押入れの方が落ちる心配はないけれど、布団は妹に説明するのに巧い言い訳が思い付かないし押入れは何だか虐待っぽい。
結局は抱えておけばいいだろうと結論を出して、一護はベッドのなるべく端に横になると自分の胸の辺りにコロイチを引っ張り寄せた。ぽんぽんと背を軽く叩けば大人しく手足を縮めて丸くなる。猫みたいだなと可笑しく思いながら待つほどもなく、ぷー、すー、ともれ始めた寝息に笑いそうになるのをどうにか我慢して。
やがて一護も、コロイチの頭をそって撫でている間に自然と瞼が下りて 。
うに、と頬に柔らかい圧力を感じで何事かと一護は渋々眼を開ける。しかしおかしい。父親の襲撃であればこんな静かな筈はない、奇声と当たり所が悪ければ悶絶では済まない命懸けの攻撃が襲い来る筈だ。
妹達であれば常識的に声が先に掛けられるからこれも違う。
ぽにぽにと僅かに強弱のある圧力の方へと顔を向ければ、なるほど。
「凄ぇ寝相」
上下は逆さま、眠りに落ちるときは丸めていた手足を精一杯広げて小さな大の字で眠る子供の足裏が、一護の頬に押し付けられていたわけだ。
小さく吹き出して、時計を見上げる。予定より少し早いが起きるのに早過ぎる時間ではない。コロイチが寝ている間に身支度を終えてしまおうと、一護はこっそり部屋を抜け出した。
コロイチは外側こそ一護と同じく器子で出来ているが、内部構造は霊子で構成されているらしい。その為普通の食事を接種することは難しいから、食事には他者の霊力を分け与えることが必要だというのが喜助の説明だった。
分け与える方法は簡単、額同士をこつんと押し付ければいいらしい。そんなことで本当にいいのか疑問に思わないではないが、コロイチが起きていたら一度試してみよう。そう思いながら階段に足を掛けた瞬間、極近くでビリビリと荒れた霊圧が噴き上げるのを感じて一護はそのままの姿勢で瞠目した。
リビングから夏梨の動揺した声が聞こえて我に返る、霊圧は虚のものとも死神のものともどこか似ていてしかし同じではない。
まさか、と思った時には一護の身体は勝手に二段飛ばしで階段を駆け上がっていた。まさか、まさかだ。
見慣れた廊下の先、自室のドアを思い切り引き開ければ、ベッドの上に座り込んだコロイチがぼろぼろ涙を溢して声なく泣いていて。
浮かんでは溢れる涙でうるうると揺れる黄金が振り返って一護を見付けるなり、コロイチはもたもたとベッドを降りてぺたぺたと覚束ない足取りで駆け寄って来る。慌ててドアを閉じた一護の脚に顔を擦り付けてふえふえと泣くコロイチのしがみつく手の強さに申し訳なさが募って、一護はごめんなと声を掛けながら胸に抱き上げ背中を叩いて。
「悪ぃ、ごめんな。怖かったよな、起きたら知らない場所だもんな」
ぽんぽんと丸い背中を叩きながら宥める言葉を掛ける一護は、コロイチが小さな手で握り締める制服のシャツにキツく皺が走るのも構わず好きにしがみつかせてやる。一護に抱かれてほっとしたのだろう、コロイチはますますぽろぽろと涙を溢しうくうくしゃくり上げながら濡れた顔を一護のシャツに擦り付けて、一護の抱き直す手付きにも引き離されるのではないかと嫌がって首を振りぎゅ、と強くしがみつく。
「ごめんな、びっくりしたんだよな?」
涙は霊子で出来ているのか、コロイチがどれほど泣こうとシャツには染み一つ出来ない。それでも一護はコロイチの赤くなった目尻を肌を擦らないようにそっと、何度も指で拭って。
暫く泣いて、すんすんと鼻を鳴らして漸く涙も止まった頃、一護はその顔を覗き込んで笑いかけた。
「腹減っただろ? いっぱい泣いたからな」
少しつつけばまた決壊しそうな涙目のコロイチのふくふくした頬を撫でて、一護は小さなコロイチの額に自分の額を近付けてみる。ぱちりと瞬きしたコロイチがへにゃり笑って嬉しげに額をくっ付けると、触れ合ったそこから霊力を吸い出される感覚に、なるほどと一護は納得した。コロイチに食事の自覚はあるのだろうか、うりうりと押し付ける仕草は甘えているようにも遊んでいるようにも取れるけれど。
「……ぁ?」
なんか、天井回ってる?
くらり目眩に襲われて慌ててドアに凭れかかった一護の腕の中で、自然額が離れたコロイチはぽっこりお腹を膨らませてご機嫌に笑った。
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