S

ignal Berry

コロイチ 01




「どぉもぉ、黒崎サン。夜分に失礼します」
非常識にも二階の窓を開けて飄々と常識的に挨拶した喜助に対し、ベッドへ横になろうと膝を乗り上げた姿勢で一護はぐっと眉間を狭めた。深夜の来訪、喜助は歓迎できない相手ではないが歓迎できないアレコレを持ち込む相手でもある。注意深く眼を凝らして眺めた彼は、やはり今夜も何かを持ち込むつもりらしい。小脇に抱えた袋がジタバタと暴れているのが見えて、一護は殆ど閉じ合わせているに等しい程まで目を細めた。しかしながらわかりやすい拒絶も喜助には通じないため。

「すみません、黒崎サン。ちょっとコレ、暫く預かってもらえませんかね?」

ジタバタジタバタと暴れに暴れている袋を突き出されてしまった。まるで炊きたての白ご飯をよそった茶碗でも差し出すような何気ない仕草と相変わらずの胡散臭い笑顔だが、受け取る気には到底なれない。一向に受け取ろうとしない一護の態度が心底不思議だというように喜助が首を傾げれば、一護は渋々それを見下ろした後、はっきりと首を横に振った。
「勘弁してくれよ、浦原さん。そんなあからさまな不審物、受け取れるわけないだろ」
「不審物? とんでもない!」
何てこと言うんですかと過剰に騒ぎ立てる様子も、この先のことを有耶無耶にしたいがためではないだろうかと疑ってしまうのは、恐らく間違っていないだろう。


「これは黒崎サンのデータを元に作ったんです! 言わば第二の黒崎サン、又は黒崎サンの生体データを分け与えた子供!」


「アンタ、人の身体で何してやがるんだ!?」
自分の身体を弄り回されるおぞましい想像に、咄嗟に袋を奪った一護としたり顔で笑う喜助、勝敗は決したに等しい。
想像していた以上の力で暴れる袋を思わずベッドに取り落とせば、地に足が着いて驚いたらしく、ぱたりと激しい動きが止まった。

「……なぁ」
「どーぞ、ご覧になってください」
袋の中は何かという問いを無視される形になり、一護が顔をしかめるけれどやはり喜助のにこにこ笑顔は変わらない。睨み合ったところで敵いはしないだろう、一護は仕方なくしっかりと結ばれた袋の口を恐る恐る解いた。暴れようか迷う気配がするから指が躊躇うけれど、一護はどうにか固い結び目を解くと、口を開けて中を覗き込む。
最初に見えたのは山吹色の毛玉だった。ふわふわのそれはあちこちくしゃくしゃに絡まっているように見える。毛玉がくるん、と回って今度は黄金の大きな猫目が見えた。涙の膜が張ったように濡れてきらきらしているそれは、明らかに幼い子供の瞳だった。
小さな口がぱかんと間抜けに開く。

「……子供?」
「可愛いでしょ」
自信に満ちた喜助の言葉に応じようと顔を上げた瞬間だった。何か軽い物が膝で跳ねて、見下ろそうとした一護のシャツの胸元に、何かがぶら下がった。重みに前屈みになる一護の首に、うりうりと擦り付けられる物がある。
「ちょ、なに    !?」
手が触れた軟らかい物をとにかく掴んで、抵抗して益々しがみつくそれをどうにか引き剥がして眼前に持ち上げれば、丸々とした幼い子供が哀しげに目を潤ませ、シャツを握り締めていた小さな手を寂しげににぎにぎさせた。


「虚化した黒崎サンの生体データから作ったんです。子供の虚化した黒崎サンなので、アタシ達はコロイチさんとお呼びしてます」










あの絵にしてやられたんですよ。
可愛過ぎて! 可愛過ぎて!(笑)



(c)Sakusi