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ignal Berry

コンクリート・ジャングル




降り注ぐのは優しくない真昼の強い陽射し、途切れることを嫌がるように群れる波を擦り抜けるように倣うように歩く。無軌道な動きに法則性を刻もうとする信号機とアスファルトの河の向こう、ガラス張りのビルが眩しくて視線を斜め後ろへ逃がした瞬間、人波の狭間に白銀の髪と翡翠の瞳を見付けた。

途端脳内で派手に点滅する警戒アラート。

警戒の意味を問うよりも早く、一護はバッシュの厚い靴底でアスファルトを思い切り蹴って走り出す。
狙われてる、彼の獲物に定められたというのは直感にして確信、疑惑にあらざる絶対。逃走は歯はあっても牙を持たないが故の生存本能。
走り出せば生き延びるまでストップは効かない    筈なのに。

直線的な全力疾走は回り道の危険に繋がる、機転を利かせたつもりで曲がった角の先にはしかし、硬く閉ざされた裏口しかないと分かって、理解する。

逃げたのではなく追われたことも、逃げ込んだのではなく追い込まれたことも。首筋を獣の呼気が撫ぜる、引き返せない確信にドアノブへ飛び付くけれど、揺さ振りには空しい拒絶の音がするだけ。
脚には自信がある、稼いだ距離で今なら未だ追い付かれてはいないかもしれない。一縷の希望に縋って戻るしかないと踵を返した先、振り返ったそこに牡がいた。
白い光を背中に、牙を持った獣がいる。

ヒク、と喉がひきつる。
怖いのは当たり前だ。それでも生きたいなら逃げなきゃならない。腹を括るしかない。

そう、思い切り踏みつけてやる    こちらの方が上背はある、メッタメタに踏みつけてトンズラするんだ!

息を吸う。
然程大きくないはずの相手の一歩に脅えて後退る。
やっぱ恐い……!

びびって震えた脚に、相手の笑った口元が見えた気がしたら    そこまでだった。
飛び掛かられ、加減なくベルトを掴まれて力任せに引き倒される。脚に乗り上がられて浮いた肩を押さえられたら、無防備に腹を晒すはめになってもう駄目。

「旨そ……」
嬉しげな獣の声、猛獣のくせに小さな舌で頬を舐め上げられて背筋が震える。

恐い怖い、喰われる……!

シャツを捲られてベルト引き抜かれてボタン押し抜かれてジッパー一気に引き下ろされて。
噛み付かれた脇腹にジン……、と消えない止まない痺れ。

「ゃ……やだ    
「駄目。逃がさない」

跳ねたがる脚の上で、ニタリとライオンが笑った。









冬獅郎がライオンなら一護はシマウマ、ということでシマウマ柄な服を着ている一護。
単純? 知ってる。



(c)Sakusi