もっと聞かせて
『ぃや、ヤ……やだっ……無理ィ
ァ、あは……イぃ、ん
!!』
『はっ
、愛してる……』
高く跳ねた余韻まで甘くマイクに吸われて、数秒、プロデューサーからオッケーが出ると、場を支配していた沈黙と強制された静寂は一転、解放で楽になった雰囲気に互いを労う声が飛び交う。
秋にはアニメ化という噂もある人気BL漫画掲載雑誌の応募者限定販売のCD、最後に残していたラストシーン、本命カップルの濡れ場パートの収録を持って今日で全収録が終了、後は編集のプロの仕事になる。
「お疲れさん、一護君。えぇ声やったねぇ」
思わずホンマに触ってる気分になったわ。
「市丸さん
いや、今本当にケツ触ってますケド……」
手離して貰っていいですか?
「セクハラしてんじゃねぇよ、市丸。大丈夫か、一護?」
一護に衝撃は行かないよう器用に加減して、しかし直撃する分にはビシッと鋭くギンの手だけを叩き落とした冬獅郎の手が、一護の腰のそのまま軽く添えられる。
二人の身体の影になっているせいであからさまではないが、押し退けられたギンにとっては目前で見せ付けられているも同然。その手を引き剥がし返してやろうとギンが手を伸ばそうとした瞬間、一護が冬獅郎の耳元へと何事かこそり囁いた。内容までは聞こえない、けれど一護が身を寄せた拍子に、ほんの僅か傾いだ身体を冬獅郎の手が必要もないのに引き寄せ支えるのを目にして、固まる。
全くの無抵抗!? あの一護ちゃんが!? 寧ろ身を任せている!?
事務所の先輩であっても行き過ぎれば鉄拳制裁を辞さない一護の、冬獅郎に対するその態度に愕然としているギンを、凍て付いた翡翠が見下し目線で嘲笑う。そんな冬獅郎の性格の悪さが一護に気付かれていないらしいのがまたギンには腹立たしい。
その本性をどうにか一護に見せ付けてやりたいと、そんなギンの考えまで見抜いたように、冬獅郎は物騒な視線を突き付けて来る。
肝が冷える。
「
なぁ……すぐ帰らねぇ?」
「は? 何だよ急に」
「お前がムカつくくらいイイ声出すからだろ」
あんまり我慢利かなそうなんだけど。
言葉よりも熱が染み入ったようにふわっと染まった一護の目尻に見とれ、冬獅郎はこのまま呑みに行かないかと投げ掛けられる周囲からの誘いを意図的に聞き流す。
残念ながら身体にそんな余裕がないんだってこと、どうしたら一護に伝わる?
「頼む、一護……」
「そ、な声ずる
」
ゾクゾク、と身を震わせた一護の眼が潤むのを眺めながら、冬獅郎は狡いのはどっちだと笑う。
「なぁ、帰るだろ?」
「…………帰る」
承諾と同時に最後の抵抗で脇腹に捩じ込まれた一護の拳は、残念ながら優しくはなかった。
声だけでおかしくさせられるなんて。
(c)Sakusi