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ignal Berry

オカマを掘られる、ということ




派手な外見のわりに存外真面目に講義を受ける友人の姿が見えず、朝から何とはなしに彼のことが気にかかっていた恋次は、昼食のために足を運んだ学食でその姿を見付けて無意識の緊張を解いた。
A定食のご飯大盛のトレーを手に、その友人・一護の前の椅子を断りもなく引く。
「朝からいなかったが、何かあったの    
僅かに顔を上げた一護の顔色の悪さに、思わず恋次が絶句する。眠っていないのか目の下には隈、肌は心なしか青ざめ、明らかに憔悴している。
「一護、何があった」
そうまでお前を追い込んだものは何か。
詰問口調に普段なら即座に顔をしかめて噛み付く一護が、今日は無言で俯く。
しかし、拒絶の態度を見せながらも話を聞いて欲しい気持ちもあったのだろう。鈍く目線を泳がせて、乾いた唇を薄く開き    ……

「オカマ、掘られた」

ぽつ、と落とされた一言に沈黙、一拍置いて恋次はぶふっ、と派手に吹き出した。
「マジで!? 相手は!?」
「……やたら美形な男」
「それならまぁ良かったじゃねぇか、お前面食いだし」
知り合えてラッキーくらい、前向きに考えて元気だせよ。

「しっかし、散々俺に下手くそ下手くそ言ってたお前がオカマ掘られるか?」
「そんなこと言ったことねぇし、関係ねぇだろ」
「大有りだっての。あぁ、なんだ、向こうが一方的に悪いのか?」
「いや……たぶん俺にも非はある、か?」
いただきます、と手を合わせた恋次は、あやふやな一護の言い分にふぅん、と相槌を打つ。
小鉢は鰹節の掛かったホウレン草のお浸しだ。

「何だよ、酒でも飲んでたのか?」
「ん」
「珍しいな、お前が酒飲んで    なんて」
反省してるのだろう、苦々しく髪を掻き回す一護に、恋次はこれ以上からかうのはなしだと区切りを付けて大根のみそ汁をすすり。

「まぁ、保険入ってんだろ? 等級は下がるだろうが、綺麗に直しておけよ」
「……治す?」
「凹んでんだろ、後ろ」
不可解気に眉をひそめた一護に、恋次はボケてんじゃねぇよと箸の先をカチカチと行儀悪く鳴らし。
「車! お前がそこまで凹むくらい派手にぶつかられたんだろ?」
    違ぇよっ!!」


掘られたのは『俺』だ。


激怒、その後の消沈。
恋次の手からカラン、と箸が落ちた。

「……掘られた?」
「おぅ」
「お前が?」
「そうだよ」
唖然呆然、恋次の口がぱかんと開いている。

「冬獅郎    とか言う奴」
俺の携帯に勝手に自分のアドレス登録してやがった。

「いやでもお前も酒入ってかなり酔ってたんだろ ?ヤられたのって勘違いじゃ……」
万が一の可能性に賭けて恋次が聞けば、何故か一護は件の携帯を握り締めて真っ赤になり、ヤられたとだけ繰り返す。

恋次は知らなかったが、その携帯には短いながらもハメ撮り動画が残っていた。
当然そんなものは『冬獅郎』の携帯にも保存されているだろう。

「おまけにアイツ、俺の免許証と保険証盗って行きやがった……!」
ご愁傷様、としか言い様のない一護の現実に掛ける言葉もなく見守っていると、一護の携帯が素っ気ない着信音と共に振動した。弾かれたように携帯を手放した一護の恐々とした視線を追えば、ディスプレイには『冬獅郎』の名前。
「……俺が出る」
掘られたのは一護にも非があるから仕方ないとしても免許証と保険証を盗むのははやり過ぎだ。怒りと共に恋次が通話ボタンを押し、電話に出る。
「コイツの免許証と保険証はてめぇが持ってんのか?」
『……一護じゃねぇな』
「俺の質問が先だろうが」
『……その声、阿散井か?』
「ぁあっ!? 何でてめぇが俺の名前」

『俺は日番谷冬獅郎だ。忘れたか?』

日番谷、という稀な名前に記憶を掘り返した恋次の顔から音を立てる勢いで血の気が下がり、色が変わった。
「………………一護に変わります」
「えぇっ!?」
助けと思ってすがった友人にアッサリ放り出されて、一護は思わず怯む。しかし差し出された携帯が引き戻される気配もない。
「諦めろ、一護」
あの人に狙われて逃げんのは不可能だ。

予想もしなかった友人からの宣告に、一護は泣きたくなりながら携帯を取り上げた。









例の如く特に設定は考えないまま、
思い切り後ろからぶつけられたらしい車の悲惨な後姿から妄想。
同じ言葉で勘違い、実際には無理があると思うんですけどね。
耶斗さんが笑ってくれたから押し切ってみました。


対のお部屋にこれの続きらしきものが…



(c)Sakusi