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ignal Berry

M体質な彼




「菓子だの何だの、浮竹のガキ扱いは何とかしてぇ……」
深々と溜め息を吐いた冬獅郎の視線を追った一護は、きょとんと目を丸くすると小さく吹き出した。
卓上の端には懐紙が広げられている。白い紙の上に、赤に青に黄といったおはじきのように色鮮やかな飴が山と積み上がり、キラキラと手燭の明かりに輝いている様子は幼子の宝物のようで愛らしい。
しかし飴の所有者は形こそ幼いがそれでも飴玉一つに一喜一憂する程あどけない年頃ではなくて。
「飴が嬉しい歳じゃねぇよな。外見も」
同意でありながら一護の言葉に潜んだ少しのからかいを冬獅郎は鋭く察し、素直に鼻の頭に皺を寄せる。
遠回しにしてはいるが、子供扱いを嫌がることこそ子供の証拠だと言いたいようなその視線が冬獅郎は気に入らない。図体ばかり育ったガキのくせに、そう冬獅郎が思っても言わないのは、実際の年齢差を時折思い出したように気にかけている恋人に対する気遣いからだが、残念ながら一護に伝わった試しはない。

「こういうの、遊子なら喜びそうだな」
淡い笑みを浮かべて言った一護の目に映っているのは、飴の山ではなく愛らしい妹なのだろう。喜ぶと言うなら持たせてやることができればいいのだろうが、それはできない話だ。
夏梨の方は何とかなるかもしれないが、霊力が小さいという遊子の方はまず無理だろう。
「お前くらいの霊力があれば食えるだろうが」
「……冬獅郎」
「何だ?」
ただ思ったことを口にしただけだというのに、一護が酷く驚かされたような顔で見下ろすから、冬獅郎は居心地の悪さを感じて首を竦める。
「いや、お前って本当にいい奴だよな」
遊子のことまで考えてくれるなんて。
しかし竦めた首を破顔した一護の伸ばした腕に抱き込まれ、冬獅郎は今度こそ渋面を作った。
時折疑ってしまうのだが、一護は自分のことを弟か何かと勘違いしてはいないだろうか?
「一護……」

「お前みたいな弟がいたら滅茶苦茶可愛がるんだけどな」

一言言ってやろうと口を開いた矢先の一護の言葉に、冬獅郎は我慢ももう十分だろうと据わった目で振り向いた。肩を押して圧し掛かり、腹に跨がって今後予測できる一護の逃走を封じる。
「冬獅郎?」
「弟、な……そういうことを言うなら、存分に可愛がってもらおうか?」
「まぁ、一方的に可愛がるのは俺の方だけどな    ?」

ゴクリと鳴った一護の喉を指先で撫でて唇で愛して、冬獅郎は耳朶に浅く歯を立てる。
「今日ばかりは酷くしてやるから覚悟しろ」
「……痛いのだけは勘弁シテクダサイ」
注ぎ込まれた甘過ぎて苦い言葉で飽和した頭が弾き出した一護のお願いに、冬獅郎は歪みたがる口角を抑え付け、広い心で努力しようと約束した。





「ひゥ    嘘、や、イタ……ぃ!」
冬獅郎が捻らせた一護の腰が怖じて跳ねた。一舐めした程度では後孔へ捩じ込まれる指の助けにもならず、生理的な反応で目尻に涙を浮かせた一護が痛いとただただ訴える。
「痛いのヤダって言っただろ!」
「言ったな。それに対して俺は努力すると言ったが、酷くするとも言っただろう?」
うぅ、と唸る一護の手を取って非難の視線をすり抜けるべく微笑み掛ける。しかし騙されてくれる気はないのか、恨みがましい視線は逸れてくれない。

    じゃあ、痛いのと苛められるのと、どっちがいい?」

「苛められるのは、いい」
平気。
意地悪く囁いた二者択一、即答が可笑しくて冬獅郎は眼を眇める。
平気とか大丈夫じゃなくて、ちょっと苛められるくらいの方が気持ちよくて好きなくせに。
本音が滲んだ自分の言葉でじわり蕩け始めた一護の目許の素直さに口付けて身を離すと、冬獅郎は部屋に備え付けられた棚を漁って戻る。塗り薬のような容器の蓋を取り、中の半透明の柔いゲルを二本の指で掬い。
「何、だよ……ソレ?」
「掻痒剤。知ってるか?」
「そーよー?」
舌足らずな調子で首を傾げる一護の許可も請わず、後孔へゲルを絡めた指を押し込む。意図したことではなかったがゲルが押し込む指の助けになったようで、一護は肩を竦め顔を隠すように畳にこめかみを擦り付けたが、痛がってそれ以上逃げるようなことはしない。
柔らかな肉を押し広げ薬を塗り込み、我が物顔で出入りする指を嬉々として食む内壁に、じゃれ付いては指先を遊ばせながら冬獅郎は時間を掛けてそこを解し、ゆっくりと指を引き抜く。食む物を失ってヒクリ収縮した後孔と爪の先とを繋ぐ透明な糸を断ち切って、冬獅郎はねとついた指を拭った。

「捨てるのも面倒で放っておいた物だが、役に立ちそうだ」
即効性らしいから、ほら、そろそろ効いて来ただろ?

「ふ……ァあ゛っ!?」
冬獅郎の言葉がスイッチだったように、一護はビクリと大きく下肢を跳ねさせた。
薬を塗り付けられた場所に火が点いたような発熱と、痺れにも似た感覚が漣のように間断なく攻め寄せる。
耐え難い強烈な感覚に理解が追い付かないまま、投げ出していた手を引き寄せ、喉を掻く。爪が掠めた皮膚にみみず腫のような紅い線が浮き上がるが、一護の動揺はその程度では収まらない。腕を巻き付けて抱え込み、縮められた一護の身体を冬獅郎はただ見下ろす。自身の変化を追うことで、否、追い立てられることに必死で、冬獅郎の視線になど一護は構っていられないに違いない。
腸の粘膜から吸収された掻痒剤で、一護の後孔が急くように搾られる。
「と、しろっ……!?」
「長くは続かないらしいが……あぁ、もう聞こえてないか?」
指を添えてやるだけでとにかく飲み込もうとする後孔の必死さに負けて、一護相手では極端に甘くなる自分に苦笑しながら指を押し込んでやれば、一護が蕩け切った息を吐いた。しかし漸く得られた満足感も束の間でしかなく、直ぐに一護は物足りないと腰を揺すり指を動かせと視線で懇願し。

「いやらしいな」
言葉で苛めば身体が先に反応して、熱い内壁がきゅぅ、と指に絡む。
望まれてせがまれて、冬獅郎の吐く息にも熱が隠る。指を増やしても追い付かない焦燥に、理性を振り切った一護は冬獅郎の指に絡めるように自身指を突き入れ、乱暴に掻き回した。
ぐちぐちと普段であれば耳を塞ぎたくなるような粘付いた音も構わず、更に奥へ深くへ指が届くよう自ら腰を浮かせ、揺らめかせる。
「も、ゃだ……冬獅郎    ……」
にちりと濡れそぼった音を立てて貪淫に開かれた後孔を、捻じ込んだ指で開いて奥まで晒し、思わず舐め啜りたくなる潤み切った眼差しを震える肩越しに寄越されて、冬獅郎はこれ以上は自分の我慢が効かないと、白旗を上げて帯を解いた。









痛いのヤダけど苛められるのはイイなんて、どきっとするでしょ?



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