珍しく街中まで、それも一人きりで出てきたのは、外国の有名なチョコレート専門店の第一号店がオープンすると知ったからだ。
女性客でごった返す店内に勇気を持って足を踏み入れひと箱買い求めたのだが、家に持って帰ると自分がこの店に行ったことがバレてしまう。遊子あたりならこの箱を見て感づいてしまうかもしれない。
それはちょっと…嫌、っていうより気まずいので、公園で平らげてしまうことにした。
あまり広くはない公園の中央にぽつんと設置されているベンチに腰かけて、厳重な包装と御大層な箱をさっさとはぎ取ると、立ち上る濃厚なカカオの匂いに思わずおおっと声が漏れた。
名前負けするようなブランドはたくさん知っているけど、今回は当たりだ。喜びが胸を満たす。
早速一粒つまんで口に放り込むと、幸せな甘味が口いっぱいに広がった。
この瞬間はほんと幸せだよなあよくやった俺!と一人自分の労を労う一護の膝に、ぬっと黒い影が落ちる。
ごく反射的に顔を上げた一護は、一瞬お宝の味も忘れて見入った。
目の前に、絶世の美女が笑顔で立っていたからだ。
自分を見下ろすその女性は、透き通るような白い肌に日本人離れした長身、そしてなにより奇跡のような色合いの銀髪と翡翠の双眸をもっていた。
びっくりしてどう振る舞えば良いのか、そもそも何か言うべきなのか、日本語で良いのか、辺りまで一護が考えを巡らしている内に、その女性はどっかりと横に座り込んでしまった。
「今 暇か?」
楽しそうに笑顔を向けてくる彼女を気にせずにチョコレートを食べ続けることは、さすがにできなかった。
が、暇かと言われたことに答えるなら、今は暇ではない。だって春の陽気に負けてしまう前に、さっさとチョコを平らげてしまいたい。
ので、一護はごく素直に首を横にふった。
「そうか。」
すると美女は心底残念そうにしゅんと眉尻を垂らし、ごく自然な動作で右手を差し伸べてきた。
「携帯。」
え、と首を傾げて動けずにいると、もう一度「携帯。」と繰り返された。
携帯電話を貸せと言うことなのだろうか。そう思ってぼんやりとした頭でのろのろと鞄を探り、自分の携帯電話を取り出して手渡す。
受け取った美女は悲しそうな表情を一転、にっこりと至極満足そうな笑みを浮かべ、勝手に高速でボタンを弄り始めた。
それを止めることもせずにぼんやりと見ていた一護は、ふい、と視線を下に落とし、もう一つチョコレートを摘む。
「ありがとう。」
目的を達したらしい彼女が一護の(チョコレートを持っていない方の)手を取り、包み込むようにして携帯を握らせる。
何事もなかったかのように立ち上がり、優雅に手を振りながら去っていく美女の後姿を見送って、自分の両手の中にあるものを見下ろした一護は、
とりあえず、と持ったままで少し溶けたチョコレートを、指に垂れた雫ごと、口の中へ押し込んだ。
「デートしてくれないか。」
お前に一目惚れしたんだ、とハスキーボイスが携帯の通話口から愛を告白してきたのはその夜で
一護はコレ夢だよな?と思いながら、暫くの間 言語化された返事を返すことができずに固まってしまった。
「一護、それ受けたの?」
翌日夢うつつのような級友を気遣って声をかけた小島水色はあまりにも素っ頓狂な「実話」を信じ切れず、ストローから口を離して問いかけた。
一護は首を傾げて口を半開きのまま、普段の彼ならやらないようなアホ面で目の焦点もぼかしている。
「しっかりしてよ!」
紙パックのジュースを机に置き、少し乱暴に肩を揺さぶる。横ではチャドも珍しく心配そうに一護を覗き込んでいた。
その視線に気づいた一護はようやくバツが悪そうに話を再開する。
「…んか、何て言っていいかわかんねーで…気がついたら、今日の放課後待ってるって……」
完全な逆ナンだ。しかもかなり強引な。
とうとうチャドが目の前で手をひらひらさせ始めた。大丈夫かと言いたくなるほどの友のボケっぷりを目の当たりにして、自分までこれじゃ収集がつかないとの責任感から、水色はようやくのことで冷静さを取り戻す。
「一護がその人とお付き合いする気があるなら、行ってみてもいいかもね。」
言うとぱっと一護がこちらを向いた。
心の底から驚きましたとありありと訴える表情に、水色は盛大に顔を顰める。
「その顔何?逆ナンされたって、つまりそういうことだよ。しかもその人ちゃんと『一目惚れした』って言ったんだよね?じゃあそういうとこまで考えないといけないんじゃない?」
水色の言葉の内容を確かめて、一気にぼふんと沸騰した一護に、友人たちは呆れてしまった。
デートに誘われて、誘われたというショックから抜け出せず、その誘いをどうこうするかについてまるで考えていなかったらしい。一護らしいというかなんというか。
しかし、水色は同時に思った。
自分がもし女でも、ただ遊びたいだけの理由なら、人気のない公園で一人チョコレートに舌鼓を打つ見るからに高校生な一護を引っかけたりはしない。
その上恋愛関心度マイナス値の一護を(ある意味)これほど逆上せ上がらせたほど、相手は絶世の美人だったらしい(一護の「きのうのできごと」説明は、その人がどれだけ美人だったか、という一点からなかなか先に進まなかった。あまり表現力豊かではなかったけど)。
「ま、行ってみれば?」
ひょっとしたらこれを機に恋というものを知れば、一護もちょっとは明るくなるかもしれない。
自分がこれまで無駄に経験してきた荒んだ男女関係のようなものでなく純情なレンアイをしそうなことは、それなりに付き合いの長い自分たちには瞭然であるし。
(うん、決して悪いことじゃない。)
そう考えると気が軽くなった水色は、減るもんじゃなし、と明るく笑って一護の背中を叩いてやった。
ちなみに啓吾は一護の話を聞き終わる頃には興奮しすぎて羨ましがりすぎて、そのへんの床の上で灰になって終いには何かブツブツ唱えている。
誰もツッコミをくれないと別の方向へ走り出した愚痴を尻目に、三人はやっと取り戻した和やかな雰囲気の中で昼食を取り始めた。
この時の彼の友人思いの優しさが一護にとってはとんでもない世界への入口になり
自分たちに甚大なダメージを及ぼす「これから」の引き金になったことを水色はこの先ずっと後悔し続けることになるのだが、今の彼らには知る由もなかった。
そうして友であり、仲間内では最も色恋沙汰に詳しい男から太鼓判を頂いた一護は、なんとなく自信を付けて指定された場所まで行ってみることにした。
待ち合わせは昨日美女と出会った公園にほど近い繁華街の一角、駅前の時計塔の前だった。
そわそわと辺りを見回して、少し早くなる鼓動を不思議に思い胸を押さえる。
昨日の人の微笑みを思い出すだけで、心臓がどきどきした。
不整脈か?と一人杞憂にくれていると、周囲の空気がざわめいて、咄嗟に一護もそちらに目を向けた。
と。
「すまない、待たせたな。」
日本人離れした長身、というよりロングすぎるおみ脚を優雅に動かしてカツカツと歩み寄ってきたスーツの男は、抱えたバラの花束を目を見開いて硬直する一護の胸に押し付けた。
「怒ってるのか?遅れて悪かった。何でもするから許してくれ。」
さわやか〜に笑みを浮かべる秀麗すぎる顔に嵌め込まれたふたつの翡翠が見る者を慈しもうと眇められ、やわらかそうな銀髪が風に遊んで静かに揺れる。
二人を見て呆然としていた周囲の人間が、再びざわめき始めると(その中にはきゃーっというかギャーッというか、何故か絹を裂くような悲鳴も交じっていたのだが)一護の口がかぱっと開いた。
「ん?」
「あ、あああああんた、きのうの、」
昨日の女の人だよな!?と続けられなかったのは、「うん」と言われてしまう恐怖を先読みしてのことだっただろうか。
思考にそんな余裕はなかったが、本能的に最悪の展開を察知したらしい一護の口は懸命にもその先を紡がなかったのだが、男は満面の笑みでそんな健気な思惑を打ち砕いた。
「ああ。昨日電話で言っただろう?お前に一目惚れした。」
一護の全身がぞわっと総毛立つのと男ががしっと腕を捕まえるのは同時だった。
ついでに言うと、固唾を呑んで見守っていた野次馬(のうち八割は女性だった)が一護を置いてきぼりでギャーッ!!!と悲鳴を上げたのも同時だったりした。
彼女らの場合は一護と違って興奮と歓喜からくる歓声だったわけだが。
「 かっ 帰る!!!!」
帰ります帰らせて下さいさようなら金輪際お会いしません!!!と素敵な笑顔に全力で背を向け逃げ出した一護を片手で押さえ込んだ元美女、現美男は輝くような笑顔のまま、まあ待てまあ待てともう一本の腕も使って一護を抱えた。
「ぎゃああああさわんじゃねえええ!!!」
「待てと言っても待ってくれないからだろう。」
「帰る!帰らせて下さい!!あのっ俺そういうのじゃないんで!!!」
「言ってる意味がよく分からねえが…俺とデートするのは嫌か?」
「 い や だ !!! 帰るうううううわああああん!!!」
「こらこら泣くな。俺が犯罪者みたいだろう?」
混乱と恐怖のあまり幼児返りを起こして泣き叫ぶ一護を軽々と小脇に抱え、男はすたこらとその場を後にした。
はっきり言って誘拐だ。「みたい」どころの騒ぎではなく、正真正銘犯罪者である。
抵抗空しくずるずる引き摺られ、例の公園まで連れ込まれた一護は、事態を把握する前に公衆トイレの個室に放り込まれてしまった。
「はーなせーっていーやー!!助けておまわりさーん!!!」
「おまわりならここにいるが。」
そう言って男が懐から取り出したのは警察手帳。再び一護の顔が驚愕に固まる。
何度か補導されて(喧嘩してて騒ぎすぎて)その細部までを克明に覚えてしまっていた自分には分かる。
本物だ。
目の前の危ない犯罪者が、正真正銘警察官だという証拠だった。
「この国一体どうなってんだよおおおおおお!!!」
「憂国の精神を持っているとは今時感心な若者だな、一護は。惚れ直した。」
「やめろほんとはなしてください!今すぐこっから出せってマジで!!!」
「まあ待てと言っているだろう。わかった、今からお前が気に入る「俺」に変わってやるから。」
な?と宥めるように肩に置かれた手を振り払い、一護は思い切りあとじさった。
とは言っても狭い公衆トイレの個室の中、男との距離が数センチほど開いたに過ぎなかったが。
威嚇するネコのように震えながら青褪めて、しかし眼だけは負けじとギラつかせている一護に苦笑を向けた男は、花束と別にもう一つ抱えていた荷を解いた。
目線だけでその中を覗き込んだ一護は、またしても一瞬呆気にとられて警戒を忘れてしまう。
大きな革の鞄の中に収まっていたのは、あまりにも男にもその身なりにも似つかわしくない、プロフェッショナルなにほひのする、メーキャップ道具だった。
呆然と薄い壁にはりつく一護の目の前で、大きな鏡を貯水タンクの上に立て掛けた男は、まずスーツを脱ぎ蓋を閉めた便座の上にきちんと畳んで置いた。
不穏なコトに及ぶ気かと一護が想像して警戒を取り戻すより前にメイク道具の下から純白のワンピースとロングのペチコートを引き摺り出して頭から手早く被る。
背面に付いているファスナーを腰辺りまで引き上げたかと思うと更にパッド入りのブラジャーを取り出し、慣れた手つきでペチコートの下に装着した後位置を整え、ファスナーの残りを一気に締め上げる。
着替えが終わると鞄の中からヘアバンドを取り出し、化粧下地を手早く指で塗り、リキッドファンデを化粧用のゴムで塗り伸ばし、その上からパウダーを叩いてアイシャドウ、アイライン、カーラーをかけた後淡い色のチークをさっと塗り、仕上げにこれまた淡色系の品の良い口紅をさっと引いて、ヘアバンドを外した。
仕上げとばかりに乱れた髪を櫛で整え、ネックレスとイヤリングを装着し、一護の方へと向き直る。
この間、わずか五分もかかっていない。驚異的な早さと、そして仕上がりの美しさであった。
化粧の出来栄えなど一護には分からなかったのだが、これほど特徴的なパーツばかりで構成されている(男女どちらの時も)絶世の美人に変わりはないのに、それでも全く別人だと思わせるほどに変わってしまったことだけは誰の目にも瞭然である。
「どうだ、俺とデートしてくれるか?」
魔女っ子の変身シーンと比べても遜色ない鮮やかな手際で美男から美女へと早変わりをしてみせた男を凝視して、あんぐりと口を開けた。
「だっ…………でも、あんた、おとこ、なんだよな?」
目の前で艶やかに笑う美女を見ているとどうにも自信がなくなってきて、一護は恐る恐る確認を取る。
「ああ、俺は男だ。しかしお前が女の俺を望むなら、お前の目の前ではいつでもこの姿でいてやる。振る舞いも女性のものにして、誰がどう見ても「彼女」でいてやるぜ?」
お前が望むなら、セックスは強要しない。キスも嫌なら絶対しない。
ただ、たまにデートしてくれるだけで構わない。
そしてその時は、必ず完璧な「彼女」でいることを約束する。
「俺と付き合ってくれないか?」
便器を挟んでこれ以上ないほど熱烈なラブコールを受けて、一護は正直に戸惑った。
目の前の男が何を言っているのかが分からない。
ならべ立てられた条件はどれも、一護がおつきあいを断る口実になりはしないかと思っていたものばかりで、こうなってしまっては「男同士なんて気持ち悪い!」という最も単純で一番破壊力のある文句しか浮かばなかった。
それでいいはずなのだ。
この男をこっぴどく振っておかなければ、なんか危ない気がする。それはいくら鈍い一護にでもひしひしと伝わってくる。そのくらい、この男はいろんな意味で只者ではなかった。
だが。
「…嫌か?」
不安げに、というか儚げに微笑む、今や完璧な美女と化した男を目の前にして、一護はうっと言葉に詰まった。
おんなのひとには弱いのだ。泣かれたりしたら、どうしていいか分からない。
それが男だと頭では分かっていても、一護にはどうしても、今目の前にいる「彼」に酷い罵声を浴びせる勇気が出なかった。
「…ほ、ほんとに…?」
一護は自分の鞄を胸に抱え直した。
ついでにいつの間にか押しつけられていた薔薇の花束を、そっと床に落とす。
「ほんとに、今言ったこと…守るか……?」
おずおずと見上げてくる一護に、女神と形容して差し支えないほどの神々しい、それでいて優しげな笑顔を向けて、「彼」は力強く頷いた。
ほっとして、次いできっと眉を寄せた一護は、「だったら、つきあう。」と男らしく言いきった。
後で後悔しそうな予感は勿論したが、それよりも今泣かれることをどうしても避けたいという一念が、一護のお人好しをMAXにさせた。
広げられたままのメイク道具が散乱する便器を挟んで、きつく握られている一護の手にそっと触れた男は、泣き出しそうな顔でありがとうと微笑んだ。
「日番谷さんって、スゲーな。」
デートという名称で会う度に、最初は身構えていた一護の警戒心はがらがらと崩れていった。
男―――名を「日番谷冬獅郎」といった―――は、はじめに約束したとおり、いつでも一護の「彼女」として振る舞った。
初めて会った(というか日番谷が一護を逆ナンした)あの日も実は痴漢の囮捜査の途中だったらしい。そう聞いて納得してしまうほど、日番谷の女装は見事だった。
街を歩くときも決して大股になったり声を荒げたりせず、一護のほうがさっさか歩いてしまって「彼女」を置いてけぼりにしてしまうこともしばしば。
髪を掻き上げるちょっとした仕草や、笑って首を傾げる様子、食事のときの箸やカップを口元に運ぶ動きまで、完璧にしとやかな大人の女性だ。
道行く人は誰も彼も、最初は二人の派手な色見に目を奪われ、次には冬獅郎の令嬢然とした立ち居振る舞いに釘付けになり、ひそひそと囁きを交わしながらぽーっと見入ってくるのだった。
その度に一護は大層居心地の悪い思いをした。
いつものように自分が注目されているわけではないから気は楽なはずなのに、この女性が実は男だと知っているという居た堪れなさからか、もしばれたらどうしようという不安感からか、ひやひやせずにはいられない。
それ以外にもむかむかというか、もやもやしたなにかが胸を覆うのだが、それが何なのかは一護にはよく分からなかった。
「そう?」
私は一護の方が綺麗だし可愛いと思っているけど、と何でもないように言い放って、運ばれてきた紅茶に口を付ける日番谷を見て、一護はぼふんと沸騰した
「…俺、女のひとの日番谷さん、は、好き……」
だ、よっ と吐き捨て顔を逸らす。
俺はホモじゃない!という意地から出てしまった台詞だったが、それでも日番谷はこの世で一番嬉しい言葉を聞いたみたいに頬を染めて笑うので、それを横目で窺った一護は、自分も赤面せずにはいられず、また胸を刺すような罪悪感に苛まれずにはいられなかった。
カップを持つたおやかな白い手に見入っていた一護は、そう言えば、と瞬いた。
日番谷は、もう一つの約束も頑なと言えるほど几帳面に守っている。
彼は常に一定の距離を保ったまま、穏やかに微笑んで一護を眺めているだけだ。
手を握ろうとしたこともなければ、歩いているときに肩が触れ合ってしまうことさえなかった。
一護の日常やプライバシーについて訊ねようともしない。
本当に、会って、一緒に過ごすだけで、満足しているらしかった。
彼が自分を想ってくれていることが、片手では足りるが、両手には満たない回数の逢瀬の中で、痛いほど伝わっていた。
本当にこのままでいいのだろうか。
浮ついた気分がふっと沈み、一護の顔が曇る。日番谷がすかさず体調を気遣う言葉をかける。
心配そうに眉を寄せる日番谷に咄嗟になんでもないと返したものの、一護の気分は晴れることなく、しばらく気まずい沈黙が続いた。
「…行こうか。」
結局また気遣わせてしまった。
一護はなんとか笑顔をつくって、その言葉に頷いて返した。
店を出てすぐ日番谷は顔色を変え、今まで見たことのないような厳しい表情で一護の手を掴んだ。
強く腕を引かれたことに反射で身構えた一護は、違うこれはそういうんじゃなくて、と言い訳をしようとして、静かに張り詰めた日番谷の雰囲気にのまれ口を噤んだ。
彼は自分の反応など気にしている余裕がない様子で、声を潜め、
それまで絶対のタブーだった、「男」に戻って囁いてきた。
「いいか一護、俺が合図したら、どこでもいい、どこか、その辺の店へ駆け込め。いいな。」
「日番谷さん?」
「いいな、絶対に俺を追ってくるな。わかったな!」
言い置いて、というよりはほとんど叫ぶように言った日番谷が駆け出した一瞬後に、悲鳴が辺りに響き渡った。
白いスカートを翻して走り続ける日番谷を目で追う一護の視界に道に倒れて泣き叫ぶ女性が映り込む。
その体から流れ出る赤を見た瞬間、ざっと血の気が引いていき
決して追うなと言われた言葉を蹴り飛ばして、一護は小さくなりかけている後姿をひたすらに追いかけた。
ヒールはさっき折れた。その拍子にこけて足を捻った、上にまた通り魔との距離が開いてしまった。
やはり女物の靴は脆くていけない。チッと舌打ちした日番谷は、ぐっと脚に力を込めて飛び掛かる準備をした。
ふと、置いてきた一護のことが頭を過ぎる。
自分は約束を破ってしまった。きっと一護はもう二度と自分に笑いかけてはくれない。会ってもくれない。
それでも、
「止まれそこの通り魔野郎!!!」
力の限り、怒りを乗せて日番谷は叫んだ。
その声の迫力に負けたのか、びくりと肩を揺らしてこちらを振り返った犯人の、逃げるスピードが緩んだ一瞬を見逃さずにアスファルトを蹴る。
腹に頭突きをかます格好で組みつき、絡み合ったまま地面を転がる。
マウントポジションに乗り上げ、ナイフを振り回す手を素早く取って捻り上げると汚い悲鳴が上がった。
一護を傷つける可能性が少しでもあるものを
そして少しでもその体に、心に傷を負わせたものを
俺は絶対に許さない。
「傷害の現行犯で逮捕する!」
雄々しく言い放った「彼女」を、集まり始めた野次馬が取り囲んでいた。
息を乱して走った足が止まったのは、ざわめく人だかりにぶちあたったところだった。
みっともなく膝に手をつき頭を垂れ、酸素の足りない脳を必死で動かしながら息を整えて、考えるべきは一つだけだと分かっていた。
ビリリっとあまり気持ちの良くない音が耳を打った。
はっとして人だかりを掻き分け、やっとのことで顔を出すと、日番谷が自分のロングスカートを引き裂いて、作った布で男の手足を縛り上げているところだった。
白くて綺麗な肌のあちこちに擦り傷ができて血が滲んでいる。
全力疾走したせいでヒールが折れ、折れた拍子に捻った足首が青黒く腫れあがっている。
そんな状態でてきぱきと男の背中に乗り上げて手際よく拘束している「彼女」は、もうどう見てもただの女には見えなくて。
一護は、痛みを感じるまで拳を握り締めた。
品の良い令嬢の面影はどこにも無く、職務に真剣な横顔と美貌のギャップに、野次馬たちもさざめいている。
拘束を完了し、芋虫のようにうごめくことしかできなくなった男からようやく降りることができた日番谷は、自分をじっと見つめる一護の視線に気がついた。
そして寂しそうに、諦めたように微笑んで、何かを言おうと口を開きかけた。
きっと別れの言葉だと理屈抜きで悟った一護は、真っ直ぐに彼を見据えて言った。
失いたくないのなら、
(初めからやり直す以外に、方法なんてないじゃないか)
「俺、日番谷さん好きだ。」
驚いて息を呑む日番谷から目を逸らすまいと踏ん張りながら、
しかしそれでも真っ赤になってしまう顔だけはどうしようもできず、二度、叫んだ。
「男でも女でも、あんたがすきだ!」
だから俺と付き合ってください!と頭を下げて手を差し出す一護に、
スカートは破けてストッキングはざっくり伝線し、髪形もぐしゃぐしゃに乱れたひどい有様の日番谷は、
最も愛おしいものを見る目で笑って、しっかりとその手を握り返した。
ショコラ・ミルク・ストロベリー・バニラ・シェイク
「なあ、キスしてもいいか?」
「えっ!?いやあの、ちょっと………」
(やっぱりいきなりは無理か…)
「……ここじゃ、その…みんな見てるし………」
「 ! ! ! 」
ここから二人の
甘くて甘くて甘すぎて、周囲の人間全てを精神的糖尿病もしくは砂糖をしばらく見るのも嫌だPTSDにするもうお前らさっさと結婚しちまえお付き合い生活が始まったわけだが、
それはまた別の話で。
おそまつ!
あとがき
あっまああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!(どっすんばったん(床ローリング))
甘くしようと試みた結果がこれだよ!!!もうこどもの日=子供隊長の日=柏餅食べたい=柏餅にも負けない糖度高いえーとあっ女装ネタ案外書いてないなよーし女装美人日番谷と流されやすい一護のお話書きまあすとか言うんじゃなかった!!!!
しかも振替休日の6日のうちに上げれば「まだ子供の日ー!」とかいう名目もアリじゃね?って思って書き始めたのに結局7日かよいつものことですね!見事なまでに遅刻!!!もう何から謝ればいいのか多すぎてわからない!!!
咲紫さんのみお持ち帰りおっけーです!でもいらないよねこんなの!
ほんとにすみませんでした!第二の園芸部になること確定だけどあれと違うのは一護の頭まで救いようがないほどかわいそうってことだ!うんもうどうしようもないね!!これ以上つべこべ言わないで帰ろう!!!
すみませんでしたーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!(全身全霊で土下座)
冬獅郎が職務に忠実なのは町を守る=一護の身の回りを守る=一護を守るという執念の現われてしかなく別段正義感が強いわけではないとか実は一護は冬獅郎の女装が無意識に凄く好みでだからあっさり流されちゃったんだよねとか冬獅郎は一護が名乗る前にさらっと一護って読んでるけど実は二人には因縁があって冬獅郎の女装癖も起源はそこにあって冬獅郎は過去のそのエピソードから一護が自分にとって最高至上の絶対的存在になっててだから一護さえ幸せなら究極世界だって征服しちゃうんだよとか色々台無しな裏設定はありますが、それより問題なのは
これ、続き考えてあるとか………
……………………
まさか……嘘だろ………!!?
2009.05.07. 上 摩央